Vol.217 「全国部落調査」復刻版裁判 問われる「救済・規制法」の不備

 

「原告が原告解放同盟に所属していることがインターネット上に掲載されていることが認められるが、ホームページの下部の階層で掲載されているなどその掲載の態様に照らすと、そのことが一般に広く知られたり、これを自らインターネット上に公開したりとは認められない。そして、他に原告の現住所又は現本籍が本件地域内にあることについて一般に広く知られていたり、不特定多数の人に知られることを容認したりしたと認められるに足りる事情は見当たらない。」「したがって、〜中略〜 原告のプライバシーが違法に侵害されたものと認められる。」「精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、〜中略〜 2万円と認めるのが相当である。」

 これが、「全国部落調査」復刻版出版事件の地裁判決であり、自分の慰謝料は、弁護士費用も含め2万2千円とされた。自分の属性やプライバシーに関することを進んで公表したり、自らをネット上で紹介したりしていないこと。また、現住所や本籍地についても進んで公表や不特定多数が知るようなオープンな対応を自らしていないとの結論を導き出し、結果、部落解放同盟関係人物一覧に掲載されたことが、プライバシーを違法に侵害した行為と認められるので、損害賠償は2万2千円であるというのが自分への判決と言うことになる。

たしかに住所や本籍地が自分の知らないところで、公表されることはプライバシーの侵害であるとの判断は当然であり、自己情報をコントロールする権利は本人のみに存在するのであり、それが不当に他の人間によって、暴いたり、公表されたりすると行った行為は、不当なプライバシー侵害であることはいうまでもない。しかし、鳥取ループ・示現舎の目的は解放同盟関係者のプライバシーを侵害することに重きが置かれたのかどうかには疑問が残る。つまりは、彼等の目的は“部落差別行為をすること”にあるのであり、AさんやBさんの人権侵害に主目的があるわけではない。大阪の委員長である赤井という人物個人を差別することが目的ではなく、部落差別をすることが目的であり、これを裁くことが出来る司法判断はいまのところ難しいというのが、現実である。

だからこそ原告240名という大規模な個人個人による人権侵害を問うという方法でもって、裁判に持ち込んだが、判決はその域を出るものではなかった。「部落民を抹殺せよ」という差別文章は、司法判断では、誰のプライバシーが侵害されたのかを問われると非常に難しい問題であり、結果として、「部落民の○○を抹殺せよ」という具体的な被害者個人が特定それなければ裁判としては、成り立たないという限界を持っている。そもそも属性による被害については、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種・信条・性別・社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない(憲法第14条)」と記載されているが、差別された場合の救済と差別した者への罰則や規定といった判断がそもそも存在しないのである。

水平社結成の折、有名なのは水平社宣言であるが、同時にその時に綱領と決議という方針も発表されている。その決議の第一項で、「吾々に對し穢多及び特殊部落民等の言行によつて侮辱の意思を表示したる時は徹底的糾彈を爲す。」とある。エタや特殊部落民といった言葉を侮辱の意志として使った場合は、徹底的にその相手に対して糾弾を為すという水平社の具体的な行動提起である。

つまりポイントは、わたしたちに対して、“侮辱の意志”が相手側にあったのかどうかがポイントである。鳥取ループ・示現舎のメンバーは差別意識を持った確信犯であり、侮辱の意志どころか、明確な差別者と言える。しかし、争われた裁判は、肝心要の部落差別が問われたというよりは、個人のプライバシー権に重きが置かれた判決だといわざるを得ない。

被差別部落の一覧表の公表が身元調査を容易にし、部落差別を助長することを認め、出版の差し止めや二次利用の禁止、データー配布の禁止などを認めた点は、高裁へ向けての好材料ではあるが、鳥取ループ・示現舎メンバーへの部落差別を引き起こしているという違法性が判断されたわけではない。もっといえば違法性を証明するに足りる法律が存在していないことがもっとも深刻に問われなければならない課題でもある。2016年12月に施行された「部落差別解消推進法」では、その第一条の目的で、「部落差別は許されないものであるとの認識の下にこれを解消することが重要な課題である〜中略〜部落差別の解消を推進し、もって部落差別のない社会を実現することを目的とする」と記されており、差別のない社会の実現のためには、被害者救済と加害者に対する一定の規制を求めた法律の制定が急務である。司法での闘いも重要ではあるが、立法府への闘いも本格化させる必要性が増して来ている。