「自分でも言ってしまう言葉だろうなぁ」とこのニュースを聞いているとそう思
コラム | 2026年8月12日
コラム | 2026年8月12日
「自分でも言ってしまう言葉だろうなぁ」とこのニュースを聞いているとそう思った。
残念なことではあるが、たった10年で2度の大震災を経験することになった熊本県地震。イオンモール熊本店で起きたガス爆発でテナント従業員7人が死亡するという痛ましい事故を巡り、イオングループが遺族に対し、早期に補償するという方針を固めたとのマスコミ報道が発表された。また、同時に屋外避難したテナント従業員らの再入館を許可した事実をイオン側が認めるとの報道もされ、その上でイオンモールの社長は「会社の責任」を認めると謝罪した。
イオンは、同社が実施した聞き取り調査などによって、客やテナント従業員の屋外退避の完了後、避難解除する前に現場の判断で従業員の再入館を許可したという事実が確認されたとホームページで発表している。複数の遺族によると、イオンモールの社長らはこの日、イオンの発表前に面会し、再入館を許可した事実を明らかにしたとの報道内容である。
イオン側は遺族に「入館を許可していた事実が分かりました。この度は大変申し訳ございません。会社の責任です」などと謝罪し、補償について「イオンとして対応する」と説明したという。イオンの担当者は補償について、「法的責任の解明を待たず、早期に対応していく方針だ」とのべたとの報道内容が明らかとなった。
全員の屋外避難を徹底し、イオンモール内すべての人の避難誘導を完了したのが、午後5時頃とされており、その後30分以上が経過した後、「貴重品を取りに戻りたい」「金庫が心配である」といった切実な従業員の声に現場のイオン側の責任者が、「再入館を許可する」「すぐに戻ってくるように」と判断してしまったことをいまは、猛反省どころか、後悔の念に苛まれていると思われる。しかし、わたしも現場の責任者として対応していたとすれば、一旦全員を退避させ、30分以上経過し、余震も心配されるが、“貴重品を取りに戻りたい”と懇願されれば、「すぐに戻ってきてください」と声をかけてしまう自分を想像する。
イオンの災害マニュアルでは、「警察や消防などの行政機関と連携した安全確認」が完了するまでは再入館できないと定めているとのことらしいが、現場の判断による再入館を許可してしまうという可能性の問題ではあるが、ミッションとしては間違ってはいるものの“再入館の許可”という判断、現場責任者の判断ミスと単純に総括できない問題でもある。
「後知恵(あとちえ)バイアス」という言葉がある。
物事が起きたあとで「最初から分かっていた」「当然の結果だ」と、予測可能だったように思い込んでしまう心理的傾向を指す言葉である。しかし、最初から爆発事故などを予見していたわけではないだろう。「安全確認がとれていない現状で、再入館を許可した現場責任者の判断は重い」のは当然である。
しかし、ガス爆発が起こる前の視点で捉えると、“貴重品を取りに戻りたい”という従業員の願いを聞き入れてまった対応を“後知恵バイアス”で避難ごうごうというのもどうかと思う。
「このような大規模な爆発が起こるとは想定しきれませんでした」というのも言い訳にとられ、責任を回避しているととられかねない言葉である。だからといって先入観で思い込み「なぜ防げなかったのか」「予測できたはずだ」と結果論から批判する見方もイキすぎたバイアスがかかった言葉である。
リーダーの決定の重要性とは、こうした瞬時の判断により、評価されることとなる。今回のケースは、「再入館を許可する」と判断した現場責任者の方の判断ミスである。ここは遺族の方々からすれば、譲ることの出来ない“現場判断”であろう。
しかし、「自分でも言ってしまう言葉だろうなぁ」と何回聞いてもそういう気持ちを抱いてしまう。マニュアルで指摘されている「警察や消防などの行政機関と連携した安全確認を最優先するまで待機してほしい」と現場責任者らしい対応をしたとして、「すぐ戻ってきますから取りに行かせてください」との懇願を本当に拒否できるだろうか。みんな逡巡してしまうのではないだろうか。
「現場責任者として全責任はわたしが取る」「貴重品を取りに行ってください」「だからすぐに戻ってきてください」と声を発してしまう自分を想像する。まさに難しい判断である。
しかし、イオングループが事故調査委員会の発表を待つことなく、遺族への補償の方針を固められたことはせめてもの誠実な対応だと讃えたい。