Vol.325 緩やかな合意形成に向けた「聞く力」の必要性

5月8日の朝日新聞朝刊に「ある研究によると、自分と意見が違う相手との会話を自分から打ち切ってしまう割合は、保守派よりもリベラル派の方がはるかに高い。皮肉な矛盾です。左派は自分たちを多様性に開かれていると誇る。また複雑な世界だから他の言語を学びたいという傾向が強いのに、実際には違う考えの人々に耐えられない。警戒システムの電源を切って他者の声を聞く訓練が必要です」とアメリカの社会学者のコメントが掲載されていた。

加えてアメリカにおけるトランプ支持派の多くの白人層について、こう分析している。

「人間は、『新しいものを手に入れるため』よりも、『一度持っていたものを失った後にそれを取り戻すため』に倍の代償を払おうとする。人々のカリスマ的な政治指導者にひかれる傾向を考えるとき、まずこの喪失に目を向けなければなりません」と。

続けて、「それは仕事の喪失、機会の喪失、居場所の喪失、何より『誇り』の喪失でした。彼らは非常に誇り高く、『わたしたちは貧しい』とは言わない。彼らの文化で貧困は恥だからです。その代わり『どれだけ工夫して乗り切ったか』を語りました。しかし外部からは貧困層としか見られませんでした」と解説する。

そして、それを学者は、「失われた誇り」ではなく、「『誇り』は盗まれたのだ」と説明している。自分を責めるな。“誇り”を盗んだのはあいつらだとトランプ氏は語りかけるというのだ。

盗んだのは誰か。それは教育を受けた人々、民主党員、移民、最終的には「あなたと似ていない誰か」。どんどん拡大していったという。アメリカにおける分断の象徴とも言うべき事態が沸き起こっているという。

今後さらに社会を覆い尽くそうとしている“喪失”という感情は、人工知能(AI)にも波及することとなり、今後5年から6年でエントリーレベル(未経験・新入社員他)の仕事の約60%が消滅すると予測されており、ホワイトカラーの業務においても半分程度がAIの性能が人間を上回ると言われている。若い層を中心に人々の“喪失感”は、拡大の一途のようだ。

一方で、若者の6割が「億万長者になりたい」と答えているらしく、“機会の喪失”により、貧困からの脱却という可能性が低くなってきているにもかかわらず、野心は高いようである。

つまり、自らの責任という観点は微塵もなく、無責任に移民を受け入れ続け、黒人への優遇を続け、非白人への権利は拡大していくとことによって、白人層の生活は奪われ、“誇り”が失われていくのではなく、盗まれていっているとの解釈である。

この敵と決めつけられている“あいつら”がアメリカ国内の非白人という階層から「イラン」に転嫁されようとしており、“あいつら”への報復として現実の戦火につながっている。誇り高きアメリカ国民のその“誇り”を奪い取る勢力(あいつら)に断固とした制裁を加える。トランプ流の分断と力による支配という政治スタイルである。

こうした政治の流動期に、はじめに指摘された「自分と意見が違う相手との会話を自分から打ち切ってしまう」傾向が強いとされるわたしたちは、どのように対処すべきなのか、そこがポイントのようである。これをアメリカの社会学者は、「バイリンガル」になることだと力説する。

つまり、相手の感情の論理を解読するという“バイリンガル”になれというのだ。聞く力の必要性が問われている。たしかに「あいつになにを言っても無駄だ」「わかりっこない」「もともと保守的な右のヤツに説明しても仕方ない」とは、どこからか何回も聞こえてきたような会話である。

同じような考え方の人たちが集えば、それがますますエスカレートして、敵対勢力に対しては、それこそ罵倒し、相手の人権などくそ食らえと言わんばかりの暴言を一度や二度は耳にしたことがあるだろう。最後には、敵対勢力とは対峙し、相手を粉砕しなければ勝利などないという結末を迎えようとする。結局は、トランプ氏と左右違えるとは言え、「報復する」との方法論に違いはない。

大阪各地の被差別部落には、行政機関との協力連携にある法人格のある「人権協会」が存在している。そこに関係する当該の地方公共団体ともちろん当事者組織である部落解放同盟の支部もある。それこそ左右違えでも定期不定期は別として、3者やそこに自治会なども参画した地域の合意形成のための会議や協議の場が存在している。

「すべての意見に賛同する必要はなく」時間を費やし、ゆるやかな合意形成をめざそうと日々努力している。地域にこそ民主政治が根付いているのかも知れない。ヒントは地域にあるようだ。