「差別から信頼へ」を合言葉に101年目からの運動を進めよう

赤井隆史委員長

2023年の年頭にあたって

水平社創立から100年を超え、いよいよ101年目からの部落解放運動がスタートした。

世界も日本も激動の中にあり、地球そのものが滅亡の危機に瀕しているということさえまことしやかに聞こえてくる昨今である。

現在のスピードで温室効果ガスを排出し続ければ、2040年までに産業革命以前よりも地球の気温が1.5℃上昇し、それによって世界は大規模な食糧危機に見舞われ、山火事が多発し、大量のサンゴ礁が消滅するというデータが公表されている。

地球滅亡の危機に対して、各国が手を携えて環境や地球温暖化の危機に立ち向かっていかなければならない時に、政府は北朝鮮と中国、そしてロシアを現実的脅威だと言い放ち、防衛費の大幅な増額に踏み切ろうとしており、日本の戦後の国家像・防衛政策の大転換について、十分な国民的議論のないままに、国防費のGDP2%が既定路線となっているような岸田政権の振る舞いである。

ロシアによるウクライナ侵攻も1年が経過しようとしており、戦争の出口すら見えない状況は続いている。とくに今後、危惧されている事態は、「戦術核」の使用をプーチン大統領が言及している点にあり、もし核使用がおこなわれるような事態に発展すれば、第3次世界大戦の勃発も危惧されている。ロシアによるウクライナ市民に犠牲と苦しみを強いる攻撃と破壊はいまなお続けられている。

弱者に過酷な試練

富裕層と貧困層の格差は、ますます拡大しており、とくに社会的弱者に過酷な試練を課している「不平等のウイルス」−新型コロナウイルス感染症は、3年目を迎えようとしており、度重なる変異株などにより世界全体で約66億3500万人以上の人が感染し、約661万人の死亡者(昨年11月)を出すなど、全世界に猛威を振るっている。とくにワクチン接種については、先進国と途上国の摂取率の差は歴然としており、格差はあきらかに助長・拡大し、不平等なパンデミックとして、いまだ収束せず、世界経済はもとより市民の日常生活に深刻な影響を与えている。

景気の後退や格差の拡大、移民・難民の増加など、人々の日常の暮らしに不安が生じるたびに、権威主義的な政治勢力が巧みにその不安を煽り、差別排外主義の台頭を促し、政治的な不安定を生み出している。

一方、部落解放運動は、こうした激動の時代に飲み込まれまいと必死にもがき抵抗し、時には柔軟に対応しながらその位置と役割を担ってきている。ここ大阪では、人権運動の先駆的な役割と地域における共生社会実現のさまざまな市民活動にチャレンジし、社会的弱者の居場所や貧困にあえぐひとたちへの生活全般にわたる相談や支援を、被差別部落という拠点を有効に活用しながら子ども食堂、地域通貨、居住支援、隣保館の自主運営など多岐にわたる市民運動を展開してきたところである。
 
国家観が問われる「人権」

個別マイノリティに対する法制度について、不十分ながら「部落差別解消推進法」をはじめ、「障害者差別解消法」「ヘイトスピーチ解消法」「アイヌ民族支援法」が成立している。しかし、人権侵害に対する法による規制や救済措置という踏み込みはきわめて弱い。旧統一教会問題が世間をざわつかせていることは周知の事実であろう。この教団は原点に、いわゆる反共主義、反左翼を掲げており、一部の保守系議員との共通点であることは紛れもない事実である。

そこにさらに深刻なのは、家父長制の回帰を目論んでいる点にあり、家族を通じて国家的統制をおこなうために、女性の人権も家族を口実に押さえこんでいく、まさに「家」制度が個人より尊重される社会をめざしていくというものであることから、選択的夫婦別姓や同性婚、性教育を認めることは出来ず、性の多様性など以ての外(もってのほか)という考え方である。

個人の尊厳とジェンダー平等を求める世論や運動は、許すことの出来ない左翼運動だと決めつけ、個人より「家族」を尊重し、家父長制が重要だとする社会の実現を目論んでいる。こうした政治勢力にとっては、それこそ包括的な人権の法制度確立を求める活動に対しては、躍起になって反対してくることは想像に難くない。

つまり、人権の法制度はその法律の実現という範囲にとどまるものではなく、これからの国家観が問われている問題でもあり、個人の人権が後退し、家意識や家父長制が前に出てくるという社会のありようについての分水嶺の闘いであることを強調しておきたい。

部落を離れた出身者も

また、同時にわたしは、これからの部落解放運動にふたつの解放同盟が必要であると主張してきている。ひとつは、地域共生社会実現をめざす部落解放同盟への挑戦であり、部落とその地域周辺のひとたちとともに額に汗して、繋がっていくというたゆまぬ努力を呼びかけている。隣保館を真ん中においてさまざまな活動を展開するのも良し、NPOで虐待やネグレストの発見、相談にチャレンジするのも良し、子ども食堂や皆食堂を通じた居場所づくりとプラットフォームの実現など、地域における貧困と社会的排除に抗う解放運動に今年はさらに力を入れていく1年にしたいものだ。

もうひとつは、大阪や全国の被差別部落にルーツを持ちながら結婚や仕事などの問題で被差別部落から居住場所を移している多くのひとたちと繋がる事が出来る緩やかなネットワークを実現したいと思っている。HRCビルに集うひとたちに呼びかけてHRC支部実現の議論を重ねてきた。同時に、大阪には、全国各地の被差別部落から居住地を移して生活の不安や出身の部落に現在も住んでいる両親の心配、さらには、自分の子どものとくに結婚や就職で父親や母親の出身が被差別部落であるという事実が暴かれるのではないかとの恐怖心は拭えない事実として横たわっている。

こうした被差別部落を離れた部落差別に寄り添うことが出来るもうひとつの解放同盟を創造したいと思っている。当然、部落解放同盟という名称というよりは、それこそ水平社会実現のネットワークとして新たな運動の構築を実現したい。

イメージの大転換を

「閉鎖的」「貧しい」「暗い」「こわい」という部落に対するイメージの大転換にとりくむ101年目からの部落解放運動に挑戦しようではないか。差別と偏見、誤解を一掃させるためにも信頼される部落解放運動にバージョンアップし一段階ステップアップさせようではないか。

新たな年のスタートとなった。全同盟員はもとより、部落解放運動に共感を寄せる多くの仲間とともに“差別から信頼へ”を合い言葉に奮闘しようではないか。