Vol.260 ジャニーズ事務所の性加害問題 被害者救済の法制化が急務

従業員300名程度が忙しく仕事に従事している会社を想像してほしい。その会社のトップである創業者は、それこそワンマンで、気に入った社員を厚遇するということが常の会社であり、文字通りのワンマン経営のたたき上げ企業である。

その会社のトップが、次から次へと従業員に対して、日常のセクハラはもとより、レイプまがいの行為を数十年にわたって繰り返し行われていたと考えたら・・・この企業は存在し続ける事が可能であるだろうか。答えは、NOだとみなさん思いませんか。

これが現在大問題になっているジャーニーズ問題の本質ではないだろうか。

つまり、トップの神話的な威厳を最大限に活用し、10代そこそこの未来ある若者に対する性的虐待は許されるものではない。しかもそれが数十年にわたって続いていたという事実が、芸能界では暗黙の了解として広がっており、結果、日本国内からの指摘では真相究明どころか、事実を隠蔽し、創業者が亡くなったことを良いことに、不問に付して何事もなかったかのように振る舞おうとした罪は重い。

日本はよく外圧に弱いと言われるが、この問題は今年3月イギリスのBBCによるドキュメンタリーの放送がひとつのきっかけとなった。こうした経緯もあってか、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が日本を訪問し、ジャニーズ問題への被害者の聞き取りだけにとどまらず、女性や性的少数者(LGBTQI+)、障害者、労働者、さらには部落問題への取材も精力的に行われ、幅広い分野で「明らかな課題」が残っていると注文を付けた。

こうした動きが発端となって、ジャニーズの大スポンサーと言われる幾つかの企業が「性加害の問題についてジャニーズ事務所に問い合わせや確認」が行われたというのである。こうしたスポンサーの動きに対して敏感に反応したのは、いうまでもなくジャニーズ事務所だ。内部に「外部専門家による再発防止特別チーム」を発足させ、報告書がとりまとめられた。公表されているごく一部を紹介しよう。

(気分を害される方は読むのをご遠慮ください)

度重なる幻聴やフラッシュバックで、自殺願望も抱くようになりました。フラッシュバックとしては、女性と性交をしている時もジャニー氏の性加害を思い出して恐怖感を抱いたり、食事中にもそのような場面を思い出して吐きそうになったりしたこともありました。

思い出して話すことによって、昔の事を思い出し過呼吸になります。

最初に被害を受けたときに体が硬直しましたが、今でも歯医者に行ったときなどに体が硬直すると、性被害を受けた時に体が硬直した時のことを思い出します。性被害の生々しい話を聞くと今でもフラッシュバックします。

私自身も性加害を告発して以降、毎晩寝るために電気を消すと、足先や、ふくらはぎ、太ももなどをジャニー氏に触られる感触が蘇り、足をこすらないと眠れなくなってしまいました。

こうした生々しい被害状況が、3ページ近く報告されている。

ジャニー喜多川氏が、その少年たちを一夜でスターに変えるという類い希な才能を持っていた事は、事実な様だが、ジャニーズからデビューするには、そのジャニー氏からの性加害の理不尽さと不条理さを無理強いに受け入れさせられ、その存在を我慢して受け入れ続けるという厳しい対応が求められたのである。

2022年、こども家庭庁設置法とともに「こども基本法」が制定され、子どもの権利擁護や子ども施策の総合的推進を目的とし、「差別の禁止」、「子どもの最善の利益」、「生命、生存及び発達に対する権利」、そして「子どもの意見の尊重」という子どもの権利条約の4つの原則を踏まえた基本理念を掲げている。しかし、現実は、子どもの権利を侵害する事案は後を絶たない。児童虐待やいじめ、体罰、子どもの貧困などに加え、近年では、ヤングケアラーやSNSをめぐる権利侵害なども指摘されている。

あくまで個別の法律によって対応がなされてきたが、子どもの権利を守る包括的な法律は存在していない。子どもへの性的虐待は、人権侵害そのものである。あらためて被害者救済の仕組みづくりを急がなければ、被害者への精神的ケアへのアクセスも遅々として進まない現状にある。人権侵害による被害者救済の法制化を急ぐべき時期を迎えている。外圧にだけ頼るのではなく、国内における人権の市民運動の展開が今こそ重要なときはない。