Vol.230 軍拡ではなく草の根の国際交流、世界の水平運動を

 

財源確保の展望も議論ないまま防衛予算をどんどん増やすという乱暴な政策、6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(いわゆる「骨太の方針」)が発表された。

「骨太の方針」では、5月23日の日米首脳会談での合意である「台湾海峡の平和と安定の重要性」についての文言を注釈に追加し、初めて「台湾有事」に言及した。また、「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」「北大西洋条約機構(NATO)が軍事費を対国内総生産(GDP)で2%以上を目標にしている」ことなどを新たに本文に追加している。

さらに、23年度予算編成でも「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」と軍事費倍増に向けた姿勢を鮮明にしたものだ。22年度当初予算での軍事費は約5・4兆円であり、GDP比1%弱である。これを5年以内にGDP2%に引き上げるとすると、毎年1兆円程度の増額が必要だという計算となる。

にもかかわらずだ。6月13日のNHK世論調査によると内閣支持が59%。岸田内閣を「支持する」と答えた人は、先月より4ポイント上がっており、「支持しない」と答えた人は先月と変わらず23%だと言う。
なんと「支持する」と答えた人の割合は、去年10月の岸田内閣発足後、最も高い支持率となった。

岸田さんを見ていると目の前の日程をこなしているだけに見えるのに、一体どうしてこれほどの高い支持率を維持できるのか。不思議で仕方がない。安倍さんや菅さんに比べても個性が際立っているように見えない岸田さんがどうしてこうも高い支持を受けるのか。

やはりよくよく考えてみると世界情勢で大きく注目されているウクライナ問題が岸田さんに追い風となっていると言うことなのか。

その原因のひとつがメディアにあるのではないか思う。

それは、なんと言ってもテレビで毎日のように映し出される映像にある。ウクライナの街で火災が起こり市民が殺傷されたり、子どもが足を失った様子などの画像を毎日のように繰り返され、多くの国民が少なからずショックを受け、日本が平和であるという安堵と、なんとウクライナのひとたちは悲惨なのかというギャップが、日本であるという安心感につながり政治への一定程度の信頼として現れていると捉えるひとたちが多いようだ。

またその残虐な映像を見せられた市民達が、小学生は千羽鶴を折って届け、女子高生は駅前で募金をわたしたちの組織もカンパ活動に取り組むなど、支援の輪が広がっている。しかし、よくよく考えてみれば、ミャンマーやアフガン、イラクやシリアでの紛争に、日本がこれほどまでに関心を寄せたであろうか。“プーチンは悪者、ゼレンスキーは善人”という情動操作と言っていいキャンペーンが成功している事を物語っているのではないだろうか。

また、こうした状況は、「ロシアは何を仕掛けてくるか予想できない恐ろしい国」というレッテル貼りへとつながり、それをアジアに置き換えた場合には、「中国も同様で恐ろしい国」と思わせることに終始しているように思うのはわたしだけであろうか。

だからこそ、「骨太の方針」で、台湾有事の際に自衛隊を繰り出して中国軍と戦うことを避けられないとする文脈に繋がっていっているではないだろうか。

たしかに、調査結果では「防衛費のGDP比増加」に賛成56%、「反撃能力の保有」に賛成60%と、自民党の軍拡路線はおおむね支持されている。
つまりは、台湾をめぐっては軍事的手段で中国に立ち向かうべきであると考える人の割合が過半数どころか、7割近い支持があるという状況を見ておく必要がある。

戦争を回避して交渉で解決するための具体的な提案はいまのところ与野党から起こってこない。このままでは挙国一致で中国との戦争に突き進みかねないのが現状である。市民の立場でこうした状況を回避するためには、コロナ禍の終息を見た段階で、解放同盟的な草の根の親睦・交流を追求していくことが重要だと思っている。中国にも多くの希望小学校や中学校の建設、ロシアにはナホトカやレニングラードへの訪ロ団派遣の実績などがある。こうした経験を活かし、草の根からの市民交流に取り組んでいくことがひとつの対立回避の市民的行動ではないだろうか。

まさに世界の水平運動の実践である。