水平時評Vol.100 自分たちで知恵を出し合い、創造する運動スタイルへ

2017年新たな年を迎えた。
昨年末の12月9日、人権週間の最後を飾るように、国会において「部落差別解消推進法」が成立した。部落差別の解消を推進するという憲政史上はじめて“部落差別解消”という用語が用いられた画期的な法案成立という新たな段階を迎え、心新たに2017年の部落解放運動のスタートを期したいと考えている。
この「部落差別解消推進法」は、あくまで理念法であり予算も伴わない議員立法である。被害者救済もなければ、差別を引き起こした行為者に対する規制もない、いわば宣言法的要素の強い法律である。しかし、一方で、この法案の最大の成果は、部落差別の存在を国が認めたことにあり、さらには、差別の解消を推進しなければならないと明記した点においては、特筆すべき意義ある法律であることを強調しておきたい。

「求める運動」から「創っていく」運動へ

この新たな法律をどう読みとるか、ここに今後の部落解放運動の創造があることを訴えたいと思っている。まずその第1は、「求める」「要求する」解放運動から、自分たちで「創っていく」解放運動に、大胆に踏み出す年にしたいということである
時の政府が、部落差別が社会悪であることを法律で明記したのである。それが、「部落差別解消推進法」だ。行政は、そこを明確に姿勢として示したが、他方で差別撤廃への救済や規制、禁止といったことにまで踏み込まないということも宣言したことになる。つまり、部落差別は社会悪ではあるが、解消のための仕組みやプロセスを、政治は棚上げするという意味にもとれるのだ。
そうであるならば、この社会悪を解消するためには、被差別当事者の努力によって、解決の方向を提案していこうという立場に立って、自分たちで社会悪を解消していくための社会運動を創っていこうという“志”を持つことである。一支部一社会的起業というスローガンをさらに発展させ、自分たちで“まち”を経営するということにチャレンジする年にしたい。

支部の腕の見せ所

第2は、「部落差別解消推進法」のいう国及び地方公共団体の責務、いわゆる行政責任については、“部落差別の解消に関する施策を講ずる”とだけ記されている。つまり、部落差別解消の施策は、「地域でそれぞれ考え実施していけ」ともとれる不十分な内容ではあるが、言い換えれば、地域で独自に知恵を出し合い、政策を提案できれば、施策を展開できるという可能性が広がったとも言えるわけであり、当該行政とともに「協働の仕組み」を創りあげ、新たな部落差別解消の施策を次々と提案し、実現を図っていくという各支部の腕の見せ所でもある。
法律が制定されたことにより、さらにそれを発展させて行く年にしたいと思っている。隣保館を自分たちで自主管理していこうという挑戦や住宅の管理システムの構築、子ども食堂の実践やフードバンクの活動、子どもの学習支援など、各地域毎による創意工夫を活発化させる年にしたい。

市民の協働で貧困に対抗

第3は、大阪の各部落に覆い被さってきている貧困という巨大な津波に、市民の協働で対抗していこうという貧困・格差解消の市民活動を本格化させる年にするという挑戦だ。
成立した「部落差別解消推進法」は、部落差別の存在を国が認め、さらには、差別の解消を推進すると明記されたのみの法律である。これでは、被差別部落の現状を改善することにはさほど効果が期待できない法律でもある。大阪の被差別部落は、社会的困難を抱える人びとが急増し、若者が部落を離れ、子どもたちが貧困にあえぐという生活実態はきわめて厳しい現状にある。こうした厳しい生活実態を差別の結果と捉え、その責任を行政に求めてきた従来の運動を転換させ、貧困・格差解消のために自分たちで知恵を出し合い、考えていくという運動スタイルへの転換を図りたいと思っている。住宅管理における指定管理の受け皿づくりや隣保館をはじめとした公共施設の民間による管理システムの確立など、自分たちのまちは、自分たちで運営し、貧困・格差解消にとりくんでいく運動へ、チェンジする年にしたいと思っている

不寛容な時代を地域から脱却

最後に、市場原理主義といわれた新自由主義の登場は、勝ち組は努力の結果であり、苦境をなめた人たちは、努力が足りないと批判の対象であった。そうした結果、弱者は見捨てられてきたわけであるが、今は経済的苦境にある人は見捨てられるだけでなく、批判される対象となってきている。社会保障という面で国に「迷惑をかけている存在」だと、糾弾の対象になってきている。相模原の施設でおこった痛ましい事件などそうした風潮を反映してることは言うまでもない。
社会全体が、寛容でなくなってきている。差別が闊歩し、強い者だけが正しいという民主主義の前提が崩れている。だからこそ、貧困と格差解消のため、地域における暮らしを守り・発展させる市民活動が急務な課題である。部落解放という目的を持った社会運動を地域でとりくむ2017年としたい。

部落解放同盟大阪府連合会 執行委員長 赤井隆史