Vol.157 より具体的で実効性ある政策を 吉村新知事との政策懇談会で

「『部落探訪』の件は、意図的に個人名がわかるようにしたり、政治的意図が働いている。結局、表現の自由の名のもとに、そのカサを利用して、やりたい放題やっているというのは、やっぱりわたしもおかしいと思っている」

5月17日、大阪府庁内でひらかれた府連と吉村洋文大阪府知事とのはじめての政策懇談会での、吉村知事の言葉である。知事就任間もないにもかかわらず、わたしたちの指摘に、即座に対応され、大阪市長を経験してきたとは言え、しっかりとした答弁をされるあたりは、“さすが”の一言である。
理念的な対応や観念論といった精神論のやりとりではなく、より具体性のある実効性のともなう政策が行政として必要であるとのポリシーも示された。具体性のある訴えでしか有権者からの支持はこないとの信念なのだろう。前代未聞のダブル選挙の仕掛人の根本を見たようである。

(ネット上のヘイトスピーチの発信者の個人名が明らかにできないことについて)「わたしからすれば『通信の秘密』を盾にした違法行為ではないか。(大阪市長時代には)自ら文章を作成し、国に対して要望を行ってきた」
「LGBTの問題も基本的に同じ考え方で、国がやらないのであれば、大阪府が率先してやっていこうという考え方」

どれもが吉村知事の言葉である。より具体的でなければ行政ではないと言わんばかりの勢いだ。
ぜひこの勢いで、9月議会において従来の「大阪府人権尊重の社会づくり条例」の改正にはじまり、「ヘイトスピーチ解消の条例」の制定、さらには「性的マイノリティに対する差別解消の条例」という三本柱による大阪府の“人権差別解消三法”が提案され、実効性の伴う人権条例として成果を上げることを期待したい。

国において「部落差別解消推進法」が成立しているという状況の中で、大阪府においては「部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例(いわゆる身元調査規制条例)」が全国に先駆けて施行されているものの、この条例で事足りるのかという問題がつぎの課題として提案されるのではないかと思っている。それは、吉村大阪府知事とのやりとりでも話題となった。野放し状態のまま放置されているネット上での人権侵害だ。

「ネット上は本当に自由な空間になってしまっていて、法制度的な枠組みを超えて、問題が生起しても、そこでは緩くなってしまっていて、そこに立法事実があると思っている。」(吉村知事発言)
「行政の立場とはいえ、裁判費用をサポートしようという風にいってくれる行政というのは、わたしたちの立場からすれば、非常にありがたい」(府連側発言)

具体性や実効性、即効性が行政として大事だ。と吉村知事は繰り返し強調された。“異議なし”であると同時に、国の法律である「部落差別解消推進法」を自治体レベルで焼き直ししたような条例では、それこそ、吉村知事の言葉を借りれば、「国の理念法ではなく、具体に何をするのか」だ。法律の焼き直し条例ではなく、大阪府ならでのアイデアに期待したい。

 被差別部落の出身者に対する結婚差別や就職差別が横行した時代に「部落地名総鑑」まで登場し、差別を商うという許しがたい事態にまで悪行が広がりを見せた。事件発覚から10年を経て大阪府がとった対応が、興信所・探偵社のおこなう身元調査という業そのものを規制するという全国ではじめての画期的な条例の提案であり施行である。この大阪府のパイオニアの精神はいまも引き継がれているはずである。

憲法が保障している「通信の秘密」がネット上の差別規制の妨げになったり、「表現の自由」という名の下に差別情報が拡散され、野放しのまま放置されているというネット空間上の現実に対して、歯止めをかけるために地方自治の英知がいまそこにこそ注がれなければならないと思っている。

「規制条例についても、具体的な手立ても盛り込まれているし、部落差別の解消に役立てていくことができる。しかし、これでも不十分だということがあれば、その立法事実を深く突き詰めて、幅広い意見を聞きながら対応していく」と述べた吉村知事。わたしたちは、その立法事実をしっかりと議論のテーブルに乗せていきたいと思っている。実りのある政策懇談会であったと振り返れるためにも!