Vol.87 安倍政権の暴走を止める…未知数の参院選

参議院選挙がスタートした。7月10日の夜には大勢が判明する。改憲勢力による“3分の2”が確保されるか否か、平和と人権が大きく後退させられるかどうか、剣が峰の闘いだ。

今回の参議院選挙の特徴は、“経験したことのない初ものづくし”の選挙であるという点にある。その第1は、安倍政権は昨年、閣議決定で憲法の根本精神を覆して強行に安保法制を成立させている。それが違憲であるという多数の憲法学者の声を無視するどころか、反対の世論が大きく広がると、安倍晋三首相は、この戦争法案とも言われる安保法制に合わせるかのように、憲法そのものを変えてしまいたいと目論見、参議院での与党3分の2の議席を確保することを目指して参議院選挙に突入している。つまり、時の政府が公然と憲法を踏みにじるという前代未聞の事態を国民が容認するのかどうかが問われている、初めての国政選挙であると捉えるべきである。安倍政権の暴走にストップという程度ではなく、憲法が問われている初めての国政選挙だという事を見抜いておくことが重要だ。

第2に、それに対して野党は、32の1人しか当選しない選挙区に、すべての統一候補を立てるという初めての戦術で対抗しようとしている。今のところ各種の調査では野党にとっては厳しい情勢ではあるが、期待通りに1人区で10を超えて勝てるようなことが現実に起これば、「国民は、安倍首相のやりたい放題にお灸をすえた」という結果となり、一定程度の安倍批判の“風”が巻き起こり、複数区や比例にも影響を与える可能性を持っている。安倍首相はそれを最も警戒しており、すでに選挙戦の序盤は、もっぱら1人区を遊説し、民共批判を展開している。 つまり、今回の参議院選挙は、「与党(自・公「大阪維新」)」対「野党統一候補」による一騎打ち的な要素を持った初めての国政選挙であり、一強多弱といわれた政界の分布図を一気に変える可能性を持っている選挙であるという事を自覚することである。

第3には、この野党統一候補擁立には、野党の4党だけでなく「市民」という新たなファクターが加わっているという点を見ておくことが重要だ。各地の政策協定には昨年の安保反対デモを担ってきた学生団体や平和団体、市民団体が当事者として参加し、またシールズやサドル、ママの会、学者の会など全国的な「市民連合」が結成され、その動きをさらに加速させている。ここ大阪においても「関西市民連合」がいち早くおだち源幸候補の推薦を決定し、奨学金の問題や若者の非正規就労問題などを訴えている。そのポリシーは、「安保法制にはっきりと反対する候補を応援して自民党をひとりでも落選させる」という勝手連的な運動であり、政党や労働組合などある意味“選挙慣れ”した従来の選挙スタイルという枠組みを超え、未体験、未経験の新たな市民による政治が産声を上げようとしている。いままで、有権者や市民は、受け身であり投票を働きかけられる側にとどまっていたのが、今回の選挙から能動側、つまり、働きかける側に回って全国的に選挙活動に携わるというのは、この国の政治にとっての「未体験ゾーン」のはじまりであり、大きな期待がふくらんでいる。

第4は、当然のことではあるが、今回の参議院選挙から選挙権が18歳に引き下げられる初めての国政選挙であるという点だ。昨今の若者は、総じて保守志向が強いと言われ、社会への閉塞感をもろに受けている世代である。と同時に、2011年に日本を襲った3.11の東日本大震災を中学生から高校生時代に体験した世代である。この世代は、非常に優しさを持っている反面、3.11により社会に対する憤りを持っている世代だとも言われている。大地震や何もかもを呑み込んでしまう津波の出現、福島原発メルトダウンという脅威に対して、自然災害への恐怖感とともに、次々に起こる原発の二次被害、三次被害など、人類が到達した最善のはずの原子力発電所の安全神話が脆くも崩れ落ちていくという現実に直面した、社会と政治への憤りを覚えた世代である。この若者達240万人が、はじめて、自分達の頭で考え行動し、投票するという国政選挙である。

憲法が問われ、野党統一候補が評価され、市民による政治参加が勢いづくかどうか、そして18歳選挙権がどんな影響を与えるか、すべてが未知数の参議院選挙である。しかし、これ以上、安倍自民党政権に好き勝手だけはさせないという共通基盤をもって選挙戦を闘い抜こうではないか!