Vol.301 SNS選挙の時代 参院選で問われる情報リテラシー

またまた暑い暑い夏を迎えようとしている。
今年は、参議院選挙の年だ。3年に1回の恒例行事のような参議院選挙ではあるが、今年は、SNSと選挙の関係が大きく変化する選挙となりそうだ。

「SNS選挙」という言葉が広がり、SNSの影響力がより明確化され、当落がSNSによって決められると言っても過言ではない状況が続いている。従来は、SNS上の支持と実際の結果が必ずしも一致しないケースが多々あった。例えば、2020年の東京都知事選では、X(旧Twitter )上で小池百合子氏に対する批判的な投稿が大部分を占めていたが、実際の選挙結果は、小池氏が2位候補の4倍以上の得票を獲得し、大差をつけて勝利するという結果に至っている。

しかし、昨年2024年にはこの傾向が変化し、7月の東京都知事選では、「石丸現象」が話題となり、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏は、ショート動画を駆使してSNS上で支持を拡大し、立憲民主党の蓮舫氏を上回る165万の得票を獲得、2位に躍進し、現職との票差を縮めるという結果となった。また昨年末の11月の兵庫県知事選では、パワハラ疑惑で一度失職した斎藤元彦氏が再選。マスメディアが疑惑を報じる中、斉藤氏を支援する「当選を目指さない候補者」まで登場し、SNS上では「斎藤氏は既得権益と闘う候補者」「彼をやめさせたい黒い勢力が存在する」などの情報が拡散され、インフルエンサーも積極的に支持を呼びかけた。

こうした結果を占うようにNHKの出口調査では、兵庫県知事選において「SNSや動画サイトを情報源とした」と答えた有権者の割合が30%に達し、テレビの24%や新聞24%を上回るという結果となった。

とにかく選挙への投票そのものが低調である昨今、投票率そのものを少しでもアップさせるには、話題づくりが優先され、対立を煽り、正義vs悪 といった感情的なSNS上での呼びかけがバズり、議論を一層過激な方向に持っていくという風潮がSNS選挙の特徴として現れはじめたことに危機感を持つひとたちも多いだろう。実際、昨年の兵庫知事選では投票率が前回から約15ポイント上昇し、斎藤氏当選の大きな要因となったことは、事実である。

しかし、SNS選挙は投票への関心を高める反面、「対立構図の強調」と「社会の分断」をさらに加速化させる負の役割をもたらそうとしている。「既得権益vs変革者」 といった二極化を強め、感情的な情報がSNS上には溢れ、政策についての論争と言うよりは、“敵をつくり徹底的に攻撃する”という過激な対立を激化させるという選挙戦となってしまった。そのことを裏付けるように、兵庫県知事選終了後に敗北した候補を支持した「22人の市長は全員辞任すべきだ」という過激な声がSNSで広がったことも、社会の分断を象徴する出来事といえるだろう。

しかしこうした声は“世論”と言えるのだろうか。SNSでは一部の極端なセンセーショナルなメッセージが発信され、爆発的に拡散されている。わたしたちには、それが“世論”に見えているだけで、錯覚に陥っている傾向にあるのではないだろうか。つまり、SNS=民意とは言い切れないことをわたしたちは知っておくべき新たな選挙スタイルという時代を迎えているのだと思う。

そこには、またフェイク情報も加味されている。一部の候補者の中に「外国人参政権を推進している」「知事となれば、即座に外国人参政権が付与され兵庫県は奪われる」といったエセ情報が広まり、短期間で候補者に対する誤ったイメージ、情報が拡がり、選挙結果に大きく反映したこともSNS選挙ならではの結果といって良いだろう。

わたしたちは、応援する候補者の政策を訴え、地道にその主張を繰り返し、有権者に理解してもらい支持を広げていくという選挙スタイルを構築してきた。しかし、SNS選挙においては、他候補の誹謗中傷やデマ、フェイク情報を拡散させ、イメージを低下させることによって、わが陣営を浮かび上がらせるという真逆の選挙手法が用いられている。兵庫県の斎藤知事は、いまもなお温厚な対応と謙虚さを前面に出し、記者からの質問にも声を荒げることなく、淡々と回答している。しかし、選挙戦においては、SNS上の仲間を多く配置し、他候補との対立を煽り、選挙戦に勝利している。

単に知識の切り売りではなく、情報を適切に理解し、批判的に評価し、そして効果的に活用する能力をわたしたちは「情報リテラシー」としてさらに養わなければいけないようである。