Vol.290 デマ、フェイクではなく信頼感で集う電子空間を
コラム | 2024年12月10日
本年10月に実施された総選挙では、野党第1党の立憲民主党は議席を50議席伸ばして148議席となり、結果だけを見ると大躍進のようだ。しかし、現実は、自民党が減らした分の受け皿的役割を立憲が果たしただけで、政党としての政策論争によって勝利したわけではない。
その結果が端的に表れている政党支持率を反映すると言われる比例代表の得票数・得票率で見ると、前回の21年総選挙と比べて立憲は7万票プラスで、1・2%しか増えていない。議席が増えたのは自民党の敵失によるもので、相手側がこけてくれた分、立憲にその議席がまわってきたと捉えるべきである。
まさに、自民党による「裏金」問題と、それをめぐって石破内閣が誕生後、石破氏自身の迷走ぶりを見せたことが大いに追い風となったのであり、それはまさに自民党自身による失策であり、立憲への棚ボタによる50議席増という結果である。
この総選挙。自らが積極的に争点を形成して内容面から勝負を迫ったという感じではない。敵失による失点をそれなりに拾い上げることで、148議席獲得したというのが実感ではないのか。
立憲が打ち出すポイントとしては、これまでもコラムで指摘し続けた第2次安倍政権とそれを継承してきた菅政権・岸田政権あわせて12年間の「安倍政治路線からの完全脱却」という基本方向を指し示し、有権者に問うという選挙戦に突入することが、立憲にとっての政権選択選挙の戦略であったはずであるが、答えはきわめて不十分な結果となってしまったのではないだろうか。
「裏金」問題だけでなく、統一教会との癒着やモリカケ問題などによる利権の分配構造や世襲議員問題まで含めた内輪ですべてを決定してしまう陰湿な政治体質、さらには、日本経済を行き詰まらせた「アベノミクス」の徹底総括、そして、米国ベッタリで中国を完全敵視した大軍拡路線への歯止めをどのように考えていくのかといった座標軸をわかりやすい言葉で有権者に示し、対案を示して闘いに挑むという総選挙にすべきであったとの総括が必要ではないのか。
こうした選挙における方針を怠ったことにより、登場したのが、ひとびとの受けが良さそうなキャッチフレーズで支持を集めようとしたポピュリズム政治の台頭である。それが、玉木国民民主党代表の「103万円の壁」論であり、東京都知事選挙の石丸旋風、さらには、兵庫県知事選挙の斉藤氏によるSNSを政治・選挙に活用した新たな選挙手法が登場し、短いフレーズで、わかりやすい言葉でSNSを駆使して訴え若者の共感を呼ぶという新たな政治スタイルの確立が、一定の支持を集めるという時代の突入を予感させている。
SNSをとくに若い世代とのコミュニケーションの手段として重視し、それを積極的に活用するための人材育成やメディア開発に本気でとりくむことが部落解放運動にとっても急務な課題である。
国のデータでも、若い世代を中心に紙離れが進んでいる現状がわかる。総務省の2023年度の調査によると、新聞の平均閲読時間は、10代は平日も休日もなんと「ゼロ分」回答であり、ネットの平均利用時間の10代の平日で約4時間18分、休日は約5時間42分。1日のうち、起きている時間の3分の1弱はネットを利用している計算となる。
そう考えれば、オールド・メディアと言われている新聞、テレビで訴えたところで若い人たちにはまったくといって届きようがない。申し訳ないが、わが「解放新聞」の購読時間も同じように短く、ほとんど若者には読まれていない(むしろ届いていない)といった方がいいだろう。
そこで、こちらサイドも政治や選挙に、日常の解放運動の発信にSNSを上手に活用することに習熟しなければならないことは言うまでもない。デマやフェイクニュースを流して相手を撹乱させることや真っ向から敵対心を強めるといったSNSではなく、そもそもネットの社会においては、人間同士の繋がりを深め共感と協働を広げていくことを求めて創られてきた技術であるという基本に立ち返り、間違った方法での悪用に歯止めをかけていく必要がある。
一部のカネや課金目当てのSNSの活用ではなく、人間的信頼感だけを求めて人々が集うような新しい電子空間を生み出そうという試みで、サイバー上の部落解放運動を政治の舞台だけではなく追求していく新たな解放運動の創造が求められていることは言うまでもないだろう。わたしたちに時間はそう残されていないことを肝に銘じて頑張らねば…。