Vol.271 プロバイダ責任制限法の改正の動き 人権委設置への布石に

年明け早々に発生した能登半島地震では、SNSを中心に被害や孤立の状況を訴えたり救助を求めたりする情報が多く発信された一方、真偽不明や偽りの情報、いわゆるフェイク情報が拡散し、社会を混乱させる事態に到っている。

中には表示回数を増やすため、被災者を装ったとみられる投稿があったり、旧ツイッターからXに変わって導入された、投稿を参照した数によって収益を上げるという仕組みが注目を浴び、従来のいたずら目的から、金もうけの行為へと変化が生じていると専門家などは分析している。

「全国から能登半島に盗賊団が大集結中」や「今回の地震は兵器によって起きた“人工地震”だ」とのなんの根拠もない誤情報“フェイクニュース”が、SNS上で拡散された。フェイクニュースの氾濫による情報空間の汚染が起こっていると言っても過言ではない状況だ。

ネット上の誹謗中傷に対応するための法整備が急務になってきていることは、火を見るよりも明らかであり、プロバイダ責任制限法(以下、プロ責法という)の改正は今国会で仕上げてもらわなければならない喫緊の課題とも言える。昨年6月には、東京高裁で、鳥取ループ・示現舎に対して、全国の被差別部落の地名をまとめた本の出版などは差別されない権利の侵害だとして、示現舎に対する出版の差し止めと地裁判決よりも出版禁止の範囲を広げ、賠償額も増額するという判決が出された。

その判決は、「本件地域情報の公表はプライバシー権又は名誉権が侵害されることがあるとしても、これは上記の人格的な利益が侵害される場合と重複するものと認められ、〜(中略)〜これらの権利利益は上記の人格的な利益において考慮するのが相当である」と結ばれており、さらには、人格的利益が侵害されているという事実をみたとき、被差別部落の出身者であるというアウティングや同和地区名の公表などは、当然のことながら平穏な生活を送ることを妨げる行為だと指摘できる判決内容である。 

つまり、鳥取ループの行為は、まぎれもなく被差別部落の集団に対する“不当な扱い(差別)”であり、それは、無論、歴然たる部落差別である、との立場に立った、画期的な判決内容である。

また、残念ながら女子プロレスラーの方や芸能人、さらには、旧ジャニーズの性被害者当時者の方々が自死せざるを得ない状況にまで追い込まれたSNS上での深刻化する悪質な誹謗中傷という事態に対して、歯止めとなる法律が必要となってきたこともプロ責法改正の背景にあったことは、言うまでもないようである。

そこで、改正されようとしている“プロ責法”は、4つの視点からの法改正が特徴となる。ひとつは、リテラシー教育のさらなる徹底という分野であり、誹謗中傷等を自ら書き込まないためのICTリテラシー向上が目的となっている。ICTリテラシーとは、SNSに関連する機器類を使いこなせること。正しい情報を探すことができること。情報セキュリティー、知識が備わっていることの3つだと言われている。ふたつめは、誹謗中傷等の投稿を削除することであり、みっつめは、差別的な書き込みをしたひとの発信者情報の開示請求。よっつめは、相談窓口の体制強化と継続的相談体制の整備という対応策を公表している。

ポイントは、言うまでもなく誹謗中傷等の投稿の削除が進んでいない点であり、この対応が新たな法案にどう盛り込まれるかがカギである。現状の総務省案では、差別的な表現であり、誹謗中傷ではないかと被害を受けた側が認識した場合、プロバイダ等へ削除の申し出ができやすいような対応をとるようプラットフォーム事業者に削除の申し出の窓口の設置を義務づけるとともに人材を配置して、対応の体制を整備することも義務とされている。また、削除を申し出たユーザーに対しては、一定の期間(一週間程度と言われている)に削除した事実またはしなかった理由を通知することが義務づけられている。

さらには、プラットフォーム事業者が“削除指針”を策定し、公表することも求められているなど、プロ責法の改正は、被害者がいままで泣き寝入りしていた現状を変える好機でもある。わたしたちは、こうした法改正により、各プラットフォーム事業者で策定される「削除指針」が、すべてのSNS関係者にオーソライズされ、それが政府から独立した人権委員会的な第三者機関として、差別と人権侵害の判断基準となっていくよう求めていかなければならない。最初の第1歩がスタートしようとしている。