Vol.264 「部落探訪」削除へ 全支部一丸となって闘いぬこう

いよいよ大阪で、本丸ともいえる「部落探訪」削除を求める裁判がスタートした。

大阪の各被差別部落でカメラが回され、隣保館として位置付けられている「人権文化センター(仮称)」や食肉や皮革産業など、いわゆる部落産業が映し出され、また立ち並ぶ市営住宅や青少年施設、老人センターなど、被差別部落各地がネットにさらされアウティングされるという差別と偏見に満ちたウェブページの削除を求める裁判が開始された。

大阪各地の被差別部落がアップされている件数は36地区であり、その中で部落解放同盟の支部の存在する地域が28地区あり、残りの8地区はいわゆる未指定地区と言われる地域である。どれもが偏見に満ちた差別扇動的ウェブページを作成し、公開しているもので、部落差別を意図的に社会に拡大させる悪質な差別投稿である。

こうしたネット上の差別と偏見に満ちたウェブページを意図的に拡大させる行為に対して、差別を禁止すべき法律が国内には存在していないという問題から、司法による判断を求める以外に方法がなく、時間と費用を要することとはなるが、裁判という形で差別を世に問うという闘いの幕が切って落とされたことを意味している。

裁判を申し立てた今回の事案に対して、マスコミの反響は大きく、テレビ、新聞などで大きく取り上げるという結果となった。

朝日新聞を紹介すると記事の内容は以下の通りだ。

「全国の被差別部落の地名を巡る記事や写真などが掲載されたウェブサイトで、憲法が保障する人格権などを侵害されているとして、被差別部落に住む70代の男性が6日、投稿の削除を求める仮処分を大阪地裁に申し立てた。投稿は社会に根深く残る部落差別を助長・固定化させるとし、男性側は『差別されない権利の侵害』とも主張する。」とわが方の主張が紹介された。

わたしは、部落解放同盟大阪府連合会の委員長であり、連合会の代表として記者会見に立ち会い、意見も公表した。しかし、マスコミが一斉に報じた記事の内容は、「被差別部落に住む70代の男性が6日、投稿の削除を求める仮処分を大阪地裁に申し立てた」となっている。当たり前と言えば当たり前ではあるが、裁判である以上、訴えた当事者はそもそもひとりであり、「被差別部落に住む70代の男性」となるわけだ。つまり、裁判という争いで差別かどうかの決着をつけるという争いは、個人が訴えなければ成立しないという性質を持ち合わせているからだ。

しかしながら、間違いなく差別を受ける可能性や差別されるかも知れないという恐怖心は、アップされたすべての被差別部落住民はもとより、その地域に出自を持ち、現在は、他の地域で暮らしている多くのひとたちにもあり、被差別部落の関係者として暴かれる不安感に怯えるという心の葛藤まで、この裁判で明らかにされることはないと思う。

しかも差別される側であり、いつ部落かどうか、被差別部落の出身者かどうかという情報が公開され、一般社会に広く流通されるかも知れないという恐怖と不安を払拭するために、わざわざこちらサイドが、弁護士を依頼し、多額の費用をかけ、申し立てせざるを得ないという現状そのものが間違っていないかとの疑問が残る。当然、差別した者が一定の規制対象となり、確信的な差別者に対しては、法的な拘束力でもって処罰されるべきが人権の法制度であるべきだ。

不安感を抱き、ときにそのおそれに怯えるなどして日常生活を送ることを余儀なくされ、これにより平穏な生活を侵害されるという被差別側こそ、救済されるべき対象であるにも関わらず、自らが進んで裁判に訴え、争わなければならないというわが国の現状を憂うばかりである。

差別禁止や被害者救済という総合的で包括的な人権の法制度がわが国に存在していない現状を打破するためにも今回の闘いは重要であることを訴えたい。そして、これからの世代に「先輩たちが訴えてくれたから包括的差別禁止法が誕生した」「裁判闘争という永い年月をかけた闘いがあったからこそ人権の法制度が確立した」と言ってもらえる闘いにわたしたちはいま突入したということに、すべての被差別部落に関連するひとたちは自覚と覚悟を持つべきである。

今回の裁判は「被差別部落に住む70代の男性」が先陣をきって代表を務めてくれたのである。そのことへの敬意を示すためにも大阪府連47支部総体の闘いとして位置付け闘い抜くことである。

「部落探訪」削除要求裁判の火蓋が切って落とされた。完全勝利へ団結を訴える。