Vol.239 個人情報一元管理への布石 危険なマイナカードの義務化

「アメからムチへの転換」「こりゃあ政府による恫喝か!」と叫びたくなるほど強引に進められそうな強気の姿勢が政府から示された。言わずと知れた河野太郎デジタル担当大臣によるマイナンバーカードの事実上義務化ともいえる保険証との紐付け、いわゆる“マイナ保険証”の登場であり、政府による個人情報一元管理に向けた布石ともいえる発言である。

「現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードと一体化したマイナ保険証に切り替える」と言明したのである。法が施行されて7年を経てなお人口の約50%に留まっていることへのいらだちなのか、「マイナに切り替えないと、保険証が使えなくなるぞ」という、まさに脅しであり、恫喝そのものである。デジタル弱者の高齢者にとってはあからさまな弱いものイジメであり、マイナへの次から次への紐付き情報へむけた序曲が始まったことを告げる行為である。

個人情報のマッチングのゴングが鳴ったことを意味する制度変更であり、次には免許証、さらには、個人が通院する病院の診察券やクレジットカード情報など、ありとあらゆる個人情報が、一枚のカードに集約されていくことになるだろう。政府による市民すべての個人情報の一元管理という時代に間違いなく進むことを意味している。

わたしたちは、被差別部落の出身であるという出自を他人から暴かれることに異議ありという立場であり、自分自身の個人情報は、自己の判断下においてコントロールする権利を有している。自己情報コントロール権という権利の問題であり、他人から出自をアウティング(暴かれる)されるような問題ではない。こうしたことと同様に、病歴の問題や自己資産、年齢や性別も含め、公表することを嫌がるひとも少なくない。まさに、その判断は自由であり、自分自身で決定する権利を持っているはずである。

では、こうした個人情報を誰かに伝えてもよいと判断する最大の理由は何なのか。自分の知られたくない、もしくは進んで言う必要のない個人の情報を、第三者に伝えるには、最大限にその相手が信頼できるかどうかがポイントであり、管理する側がお粗末な団体や組織であった場合、管理して欲しいとは思わないのが当然である。

つまり、政府と市民との信頼関係があるかないかが、マイナ普及の最大のポイントであり、“アメとムチ”による上から目線の締めつけは、ますます政府と市民を遊離することにつながり、信頼関係が損なわれる可能性の方が高く、政府の思惑は失敗に終わることとなるだろう。

政府に信頼がない以上、個人情報の漏洩・悪用に対する不安感は拭えず、深い不信感が存在する。政府をはじめ大手IT企業にしても銀行にしても、大規模デジタルシステムにおいて、失敗を繰り返しており、お粗末ぶりは世間に広く周知されているという状況だ。こうしたことに深い反省もないままに、市民を脅し上げてマイナ取得に駆り立てようとする強引な恫喝的手法では不信感は増すばかりである。

それよりは、地域コミュニティを基盤とする市民活動を基礎とした個人情報のデジタル化という方向に舵を切るべきではないかと指摘したい。地域を基盤としたNPOや法人格を持つ地域団体は少なくない。地域人権協会もその資格を持つひとつの有益な団体ではないかと考える。

このような地域住民から信頼されている法人格を持つ団体に、個人情報がしっかりと管理され、「年齢が把握できれば安否確認に訪問できる」とか、「健康や医療の情報がわかれば、薬の服用などへのアドバイス」が可能となったり、一元管理される個人情報が“下から目線”でつながっていくという政府とは真逆の“マイナ政策”と言えるだろう。つまり、市民の持つ個人情報を政府が上から管理しようとすれば、反発されるのが至極当然であり、下から湧いてくるような市民のつながりで個人情報をネットワークしていこうという“下からの民主主義”でしか実現しないことを心がけるべきである。

政府という時の権力が、マイナ保険証の紐付けからスタートし、免許証、住民票、本籍地情報という戸籍まで、一元化の対象とし、個人のあらゆる情報を政府が管理するという方向にむかえば、反発する市民も出現することは必至である。当然政府は、協力しないひとたちに対しては、強い脅しと恫喝で、権力の言うことを聞けと民主主義とは逆行する危険な方向にますますむかうこととなる。マイナンバーカード制度導入時は、あくまでカード取得は任意であったはずであり、それが事実上義務化されるというのはあまりにも理不尽な政府対応である。

税や年金の情報や病歴などプライバシー性の高い情報は記録されないと現段階では説明されてはいるが、マイナカード取得は任意であると説明していた政府が、舌の根も乾かぬうちにマイナ保険証が登場したことを考えれば、プライバシー性の高い情報も一元化の対象とされる可能性が高いことに市民は危険な兆候を感じているのも当然である。こんな政府に個人情報を管理されるわけにはいかない。