Vol.116 障害者差別解消法から学ぶ「推進法」の具体化

昨年末「部落差別解消推進法」が施行された。議員立法という誕生までの経過もあり、予算措置がともなわない宣言法的要素が強いことをみなさんはご存じだろうか。
なんとか2018年度に予算化できないものか・・・中央本部で精力的に現在、とりくまれているところだが、相談、啓発、調査などの項目で、国の予算が組まれるということになれば、全国各地の都道府県はもとより、市町村レベルにおいても予算化しやすい環境を醸成することにもつながるだろう。

いわゆる人権三法(障害者差別解消法 ヘイトスピーチ対処法 部落差別解消推進法)の中での先輩格と言える「障害者差別解消法」は、成立の過程においても部落差別解消推進法とは少し違った経過を経ている。
国連総会における「障害者の権利に関する条約」の採択という国際的な潮流が存在し、それを受けて内閣府に障がい者制度改革推進会議が設置され、閣議決定(2010年6月)により「障害者制度改革の推進のための基本方向」が示され、三つの横断的課題(①障害者基本法の改正、②障害を理由とする差別を禁止する法律の制定等、③障害者総合福祉法(仮称)の制定)が提示された。
そのもとで障害を理由とする差別の禁止に関する法律の制定が求められ、2013年6月の国会で「障害者差別解消法」が成立。その後も障害を理由とする差別の禁止に関する基本方針の閣議決定や雇用における差別禁止と合理的配慮に関する指針が厚労省で策定されるなどの経過の後、2016年4月から「障害者差別解消法」の施行に至っている。

法律の肝として、第17条で、地方公共団体等は“障害者差別解消支援地域協議会”を組織することができるとされており、障害者差別の解消に関する地域のさまざまな機関等により構成され、相談体制の整備、紛争解決の後押しと事例の共有。障害者差別の解消のためのとりくみの周知・発信、研修・啓発、さらには、合理的配慮の提供の促進に関するとりくみなどを促している。
もうひとつの肝は、第5条で”社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備”が謳われており、「行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない」ものとしている。加えて、差別の禁止事由として、障害を理由とする不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならないと明確に”差別の解消”と”差別の禁止”を具体的に提案したことは特筆すべき画期的な法律であることを強調したい。

「障がい者制度改革推進会議」の事務局を担われた立命館大学生存学研究センター客員研究員の金政玉(きむじょんおく)さんは、第2条の定義で4つの事項を定めていると説明されている。
それは障害者が日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会の①事物、②制度、③慣行、④観念である。
①事物とは街の中の移動を妨げる階段、利用しにくい施設、交通機関など、②制度とは利用しにくい、または利用できない制度③慣行とは障害者の存在を考えていない、又は表向きは中立的な規則、基準、慣習など④観念とは、障害者への偏見、差別意識などであると説明されている。

今後の“部落差別解消推進法”の具体化に向けた課題として、わたしは、金さんが指摘している社会的障壁の慣行と観念が、部落差別撤廃に向けて必要不可欠な課題であるように思えてならない。
部落差別における慣行や慣習とは、日本における家意識の問題や戸籍などまさしく「和の精神」を尊ぶよう教育し、家の論理でもって国民を統治しようという発想に結びつくものである。
最近でも結婚の際の“釣書”交換や、いまだ興信所によって戸籍などが不正に取得され身元調査に悪用されているという事実などは、こうした慣習を放置してきたことによる、まさに社会的障壁のひとつである。
さらには、観念は、部落出身者や被差別部落に居住するひとへの偏見であり、差別意識の存在であることはいうまでもないが、「観念」の別の意味で捉えると部落の側に潜んでいる「一方的なあきらめ」「勝手な差別の受け入れ」「差別されることを覚悟する」と言った、もうこれまでと「観念」してしまう弱さも差別を撤廃できない要因のひとつだとは言い過ぎだろうか。
人間として向上しようという意欲やもう一踏ん張り努力する力を差別が奪っているように思えてならないのである。つまり、部落の側にも長い年月をかけて積み上がってきた壁がそびえ立っているように思うのである。奈良県連が指摘している「両側から越える」必要性がここにもあると感じる。