Vol.98 「王様が許可する」ルールではなくー「法」ができた今考えるべきこと

府連の顧問弁護士になってもらっている大橋さゆり弁護士が、若手の弁護士メンバーを中心にして「憲法カフェ」というとりくみを進めている。若手弁護士の有志が憲法に関して多くの情報を発信し、出し入れ自由な意見交換ができる場として各方面に開催を呼びかけている。「憲法カフェ」は、紙芝居を使って、憲法は何のためにあるのかの説明から始まる。

王を縛る法律 〜憲法の始まり〜
むかしあるところに悪い王様がいました。国民は王様のことが嫌いでしたが、王様に逆らうことはできませんでした。気に入らないと殺されてしまうからです。人々はずっと我慢を強いられました。本や新聞を書く人は怖くて本当のことを書けませんでした。また、王様の不満について話すことができませんでした。
いずれ人々の我慢も限界になり、人々は悪い王様を捕まえ新しい王様を選びました。新しい王様は憲法を作りました。王様が許可したことはなんでもしてもいいというルールです。しかし、実際には王様はなにも許可せず人々は我慢をしていました。
そこで人々は話し合い考えました。「憲法には王様が国民に自由を与えるとあるが間違っている。自由は王様からもらうものではなく、生まれながら持っているものだ」。
国民は立ち上がり、王様の権力を縛る新しいルールを作りました。 これが新しい憲法です。
憲法のおかげで、王様が好き勝手できないようになりました。やがて現代になり、選挙で選ばれた人が政治をする時代になりました。しかし、現在でも生活で困っている人、無実で捕まった人がいます。
こんな時、偉い人たちが憲法を守ってくれているかどうかを私たちが見守る必要があります。そして憲法を破っていたら、憲法を守らせるために声を上げなければいけません。

この紙芝居では、まとめとして次の4点が強調される。①権力者は権力を不必要または必要以上に行使し、人の自由を侵害してしまう傾向がある。②権力の濫用を抑えるために憲法が制定された。③政治権力は憲法に則って行使されるべきだという考えを「立憲主義」という。④現在の日本国憲法は立憲主義に基づいている。

12月9日参議院本会議において「部落差別解消推進法」が成立した。

「部落差別解消推進法」は、部落差別の存在を国が認定し、かつ差別解消のためにとりくまなければならないと規定した憲政史上、画期的な法律である。

しかし、中身については、人権侵害に対する救済もなければ規制もない、いわば理念法的な要素の強い議員立法である。参議院での審議において、同和関係団体による公聴会を開催し、意見聴取がおこなわれたが、そこでも「何が部落差別にあたるのか」「どの内容が人権侵害となりうるのか」といった議論があった。

憲法論議で指摘されている「時として権力者は、人の自由を侵害してしまう傾向にある」という観点からも、政府(時の権力者)から独立した人権委員会(仮称)が設置され、その委員会において、人権侵害や部落差別の定義がなされ、被害者の救済と加害者への一定の規制が実施される“人権侵害救済法”が求められる。

「王様が許可する」というルールではなく、時として権力者は、人権侵害をしてしまう可能性が強いものであるという観点に立って、政府から独立した人権委員会の確立を果たすことが、国際的に日本がとるべき責務であることを強調したい。