大量にばらかまれる差別文書 

水平時評 府連書記長 赤井隆史

大阪府内各地で大量にしかも広範囲に悪質な差別文書がばらまかれている。被差別部落内の公営住宅の郵便受けに投函されたり、駐車中の車両のワイパーに挟み込まれていたり、現時点(6月4日現在)で府連が把握している被害状況は、26カ所にも及んでいる。

先月の25日には、その犯人が堂々と市内の市民交流センターに来て、ある方向を指しながら「むこうにも同和住宅があったやろ」「ぼくの友達が同和住宅に引っ越してきた」などと職員に聞き、「そのような質問には答えられません」と対応したら、そそくさと市民交流センターを後にした。職員が、不審に思い地域内を巡回していたところその男は、被差別部落内の公営住宅のポストに差別文書を入れており、職員が「何やっているんや」と強い口調で言うと、あわてて自転車で逃げ去ったという。

差別文章の中身は以下のようなものだ。
「こら部落民お前ら牛殺しの仲間やろう。えったえったこらくそ部落民。お前ら真目(本文のまま)な仕事出来るか」から始まり、「一般人からの嫌われ者」「今でも部落差別はあるんや。此の部落差別は何十年立とうが何百年立とうが変わらんのや。だから部落差別は当然なんや」。
極めて悪質な内容である。

今回の事件は、差別文書の郵送から始まり、現在では、地区内公営住宅への直接投函に行動がエスカレートしてきており、八尾市内のある地区では100枚以上、大阪市内のある地区でも80枚以上という大量の差別文書がばらまかれるという事態に至っている。

また、特定の職業9業種(屠殺場、皮屋、肉屋、鶏肉屋、廃品回収屋、ゴミ屋、葬式屋、火葬場、刑務官)を列挙し、あたかも賤しい仕事であるかのように差別表記し、公営住宅についても家賃滞納などで、同和地区住民にありもしない便宜が図られているとの誹謗・中傷など、偏見がすり込まれた、確信的な差別意識をもった犯人像が窺える。

執拗に繰り返される悪質な手口、どこが同和地区であるかを知っているなど、一定の知識を持ち合わせているなど、個人的な怨念を持っていることも予想される。今後ますます犯行がエスカレートすることも危惧される。

こうした事件が発覚している最中、大阪市議会で「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例案」が提案されようとしている。

ヘイトスピーチを個人の尊厳を害する危険性のある行為と断定し、自治体における条例でヘイトスピーチに対処しようというものであり、多くの在日コリアンが生活する自治体としてヘイトスピーチを許さない姿勢を明確にし、抑止を図ることを目的としたものだ。

「条例案」の第1条「目的」では、「この条例は、ヘイトスピーチが個人の尊厳を害し差別の意識を生じさせるおそれがあることに鑑み、ヘイトスピーチに対処するため本市がとる措置等に関し必要な事項を定めることにより、市民等の人権を擁護するとともにヘイトスピーチの抑止を図ることを目的とする」と示されている。

そもそも“ヘイトスピーチ”とは、「憎悪にもとづく発言」とされており、主に人種、国籍、思想、性別、障害、職業、外見などについて、個人や集団に対して誹謗・中傷、貶す、差別するなどし、さらには他人をそのように煽動する発言(書き込みも含む)のことを指している。

条例案の名称からすれば、上記の部落差別を助長する差別文章も当然、対象にならなければならない。しかし、今回の条例案は、「人種若しくは民族に係る」と定義されており、部落民や被差別部落、特定の職業への誹謗・中傷は含まれていないものとなっている。

ヘイトスピーチの表現として、「明らかに憎悪若しくは差別の意識又は暴力をあおること」と説明されていることからも、今回の差別文章にある「一般人からの嫌われ者」や、「○○(地区名)のえったお前ら字書けるんか」。「普通の人間の手の出せない仕事しか部落の人間は務まらん」「学校もろくに行かずほとんどが中学校卒業だろう」との内容は、それこそ、憎悪であり、暴力以外のなにものでもない。

まずは近年大きな問題となっている“人種・民族”に対するヘイトスピーチに限定して抑止を図ろうとすることに一定の理解は示すが、決してそれだけで留まってはならないだろう。明々白々な部落差別文章が広範囲に、大量に配布されているのである。行政における差別規制は急務な課題である。