強い精神と情熱を持って社会問題に挑むこと

水平時評 府連書記長 赤井隆史

府連に関係する16の社会福祉法人でつくる「つばめ会」の研究集会で、現在、恩賜財団済生会の理事長をつとめておられる炭谷茂さんの話を聞く機会があった。

今日の福祉の状況を説明されたところで、「ひとりの人間に問題が集中する時代」だと力説されていた。“貧困”“孤立”“障害”“刑余者”などなど、個人で解決するには困難な要素が、多様に絡み合ってさらに問題を複雑にしていると説明されていた。福祉という狭い枠組みだけで、社会問題を捉えるという時代ではなくなったとも解説されておられた。

また、ひとりの人間に問題が集中するとともに、磁石に吸い寄せられるように、一定の地域にも集中化してきている傾向があるとも指摘され、社会的排除や貧困、孤立などが特定の地域にさらに集中する深刻な状況も説明された。被差別部落にこうした社会的課題を抱えた人々がこれから増え続けるであろうことは想像に難くない。

その一方で、人口構造の変化、家庭の扶養機能の弱体化、地域社会、企業のつながりの脆弱化などにより、他人との関係を薄い関わりに留めておこうとする社会心理が蔓延しはじめているとも指摘され、他人や地域への無関心の広がりに警鐘を鳴らされている。

「なんとも生きにくい社会である。こんな日本に誰がした!」とぼやいていても仕方がない。夢と希望を持って前向きに生きるためには、どうしたら良いか?炭谷さんは、戦前からの福祉の伝統を継承することに答えがあると説明されている。

それは「あらゆる社会問題を解決しようとする強い精神と情熱」である。強い精神と情熱が、日本の社会福祉を牽引し、地域住民の信頼を得てきたのであり、社会福祉としての開拓者精神と、最後の砦であるという自覚をますます強く持って、事に当たれと「つばめ会」のメンバーににハッパをかけておられた。

他人とのかかわりを希薄に薄ぺっらいものにしてしまった社会のツケが、「にらまれた」だけで相手を鋭利な刃物で斬りつけるという痛ましい事件であったり、18才や17才の青年が、中学1年生を殺めてしまったり、本当に痛ましい事件が後を絶たない。

「正当な努力が評価されない時代だから閉塞感が漂っているんだ」と主張する人たちがいる。「額に汗して働いても報われない社会が悪い」と社会の疲弊を嘆いている人たちがいる。

『21世紀の資本』で話題となったトマ・ピケティは、東大での講義での講演で以下のように指摘した。

「機会が平等に与えられた上で、努力して得た財産に差が生まれるのは仕方ない。しかし近年は、働かずとも相続によって利益を増やしている層が増大している。特に、先進国では少子化が進んでおり、祖父母や両親の財産を子息が一身に受け継ぐことも少なくない。裕福な家庭に生まれた人は、さらに裕福になることが約束されているということだ。こうした事態は、真面目に働いてきた労働者の不満につながる恐れがある」。

それに対し、経済学部3年生の男子学生は、次のような複雑な心境を語っている。

「格差の拡大が望まれないことは理解できます。でも、自分が生きているうちに資本主義のあり方を考え直さなきゃいけないほど大きな変化があるとは思えない。だったら、やっぱり富裕層に入っておきたい。そのために、がむしゃらに勉強してきたんです。富裕層への課税に反発もするし、国がそのような政策をとるなら、海外に逃げたくもなります」

東大生のこの言葉に日本の格差が端的に示されていると思う。ここは、やっぱり、「あらゆる社会問題を解決しようとする強い精神と情熱」を持って、社会の改革にチャレンジしようという強い気概しかないようである。