Vol.304 参院選 差別、分断を阻止する政治の言葉が求められている

参議院選挙本番真っ只中の闘いである。
本来の参議院選挙は、政権への審判というよりは、じっくり各候補の政策を吟味し、良識の府たる国政をチェックする機能を持つものであり、そうした判断が優先されてきたのが、参議院選挙である。政権の枠組みであるとか、政権選択という選挙の色合いは薄く、より長期的な視点から判断するというのが、参議院選挙の特徴である。

しかし、今回の参議院選挙は様相がまったく違うようである。それは、石破首相が、参議院の勝敗ラインを与党で過半数を目標に掲げたからである。つまり、50議席を下回れば、政権が与党から野党に代わりうる選挙となり、言い換えれば参議院選挙が、「政権選択」という選挙に様変わりしたことを意味している。改選前の与党の議席数が66議席あるものをわざわざ勝敗ラインを50議席という低い数字に設定したことにより、「もしかすると政権が変わるかも?」という期待感が有権者に広がり、「自民党に変わる野党連立が実現するか?」といった従来の参議院選挙ではない政権の枠組みが問われる選挙となったことで、関心が高まってきているという現状である。

選挙は、“現金給付か、消費税減税か”といった物価高への対応やアメリカトランプ関税への対応をめぐってが大きな争点となっているようだが、ここに来て参政党旋風が吹き荒れ、外国人への対応というフレーズが、突如大きな選挙争点としてSNSを賑わしている。

「外国人の日本への受け入れに一定の規制をすべき」「外国人による高額な土地や不動産取得に規制を設けるべき」など、外国人に対する過度な優遇は是正すべきであるという主張が幅をきかせ出してきている。こうした動きを察知したのか、政府がいち早く対応を表明した。外国人対策の司令塔となる組織を内閣官房に設置するという方向や、出入国管理の「適正化」や難民申請の抑制、外国人保険適用のあり方の検討、土地所有の「透明性」確保などが検討されようとしている。

「日本人ファースト」を掲げる参政党は、「外国人への生活保護支給を停止」「(社会保障の適用は)日本の国益につながる相当の理由がある人物のみへの実施を徹底する」「日本の文化的背景の理解と遵守の厳格化」などと明記し、参政党飛躍の大きな要因となっている。

東京や大阪などに溢れるインバウンド。たしかに一部のひとたちのマナーやルールが問題視され、観光地での迷惑行為の増加が目についている昨今である。

しかし、こうしたインバウンド問題と在留外国人問題とはそもそも次元の違う問題であり、それを総じて外国人問題として十把一絡げで扱うこと事態に問題がある。横文字が登場するが、最近こうした状況は「アテンション・エコノミー」として説明されており、情報過多の高度情報化社会においては、情報の優劣や情報が真実か、虚偽か、といった事よりも“人々の関心・注目”という希少性こそが経済的価値を持つようになることを言い、SNSによる炎上やフェイクニュース、扇情主義などが問題だと注目されている言葉である。

在留外国人の犯罪率の高さというフェイクニュースが存在する。犯罪率は、日本人も外国人も同様の数字を示しているにもかかわらず、海外から来ている外国人に犯罪者が多いというフェイクがバズっているという。7月5日に「日本に大災難が起こる」という漫画での予言がユーチューブやXなどで広がり、香港からの航空便が運休にもなる事態になった。科学的根拠がなく、“うわさ”は“うわさ”で終わったが、これもSNSでのフェイクニュースの拡散であり、根拠のないデマに多くのひとびとが影響を受けているという。

確信的なコアな民族主義者がその円の中心となり、その輪が広がり、一部のインバウンドのひとによるマナー違反行為と結びつき、海外の投資家によるタワーマンションや不動産取得などのルール無用の買い占め行為に結びつき、外国人のみが高額な奨学金を給付制で受けているというデマとつながり、最後は犯罪を犯した外国人というフェイクの連鎖となり、やはり“日本人ファースト”が最大の選挙争点であるという理屈につながっていくという対立と分断の政治構図へと変貌していくのである。

排外主義的な主張が強まっている。多様性尊重やダイバーシティなどの時代の流れに逆行するからこそ、強い不満となって有権者を浸食している。外国人に不満の矛先を向けたからといって、時代が大きく変わることなどあり得ない。

差別や分断を阻止する包摂的な政治を呼びかけるキャッチフレーズが必要だ。「人権ファースト」では、心もとない。各候補に新たなフレーズを期待したい。