Vol.312 高い削除へのハードル 情プラ法に5つの課題

「情報流通プラットフォーム対処法(以下、「情プラ法」)」により、総務省から指定を受けた業者9社すべての届け出が8月末に終えたこととなり、法律の本格的運用が開始されたこととなった。

削除申出窓口のわかりやすさや削除申請に対して、一週間での決着が見られるとの「情プラ法」の“売り”が強調されてきたが、正直前途多難な法解釈というはやくも大きな壁が目の前に現れたようである。

ポイントは、5つあるようだ。その第1は、「削除の申出窓口からの申請方法」が9社ともさまざまで、非常に難解であるという点である。だいだい4回から5回クリックすれば、削除申出の窓口にたどり着くが、多くが外資系企業のため、「誹謗・中傷」という分類分けのところをクリックすれば、それは、あくまで誹謗中傷として取り扱われるようであり、「法的問題」というジャンルをクリックすることによって、「法律に該当する削除申請」という分類分けに該当することとなる。

いわゆる“「情プラ法」”扱いによる削除対象にようやくたどり着くというやっかいな代物だ。LINEヤフーの場合、「プライバシーポリシーに同意する」というジャンルにチェックを入れると「『情プラ法』に関する権利侵害投稿削除申出フォーム」にたどり着き、同意するにチェックを入れ、削除内容を詳細に描き込むというページに行き着くこととなる。個人ユーザーが削除要請するには、きわめてハードルが高いことが最大の難点のようである。

第2は、ネット上で被害を受けた被害者が、わざわざその業者(プラットフォーム)のアカウントを取得しないと削除を受け付けないという問題点である。きわめて難しい問題で、プラットフォーム側からしてみれば、被害者個人を特定しないと削除要請には応えられないという点も理解できる。しかし、被害者側からしてみれば、悪質な差別を確信的にネット上で広げている加害者が、LINEヤフーで拡散するのか、TikTokで拡散するのかは加害者の勝手な判断であり、被害者には何の罪もない。その被害者が、削除要請するのに、プラットフォームのアカウントを取得しないと削除できないという本末転倒な問題が起こっている。

第3は、削除申請を最後までおこない、プラットフォーム側から「申請を受け付けました」との回答が寄せられるのではあるが、その申請が果たして、「情プラ法」に基づいて受け付けられたものなのか、それとも単純に誹謗・中傷というジャンルで受け付けられたのか、名誉毀損、プライバシー侵害など、どの分野でプラットフォーム側が受理したのかが、確認できないという問題点が明らかになってきている。

被害者本人は、「情プラ法」に基づいて削除申出をおこなったものと理解はしていても実際は、有害情報で受け付けて処理されるというケースも考えられる。
つまりは、「情プラ法」という法律に基づく削除申請をプラットフォーム側がしっかりと受理したという“証(あかし)”が必要である。

第4は、個人ユーザーによる削除申出が難解なため、第3者(代理人)による削除要請を受け付けると、どの業者も門戸を広げてはいるものの、その対象が不明確であり、被害者が住民票を置く自治体が代理人として削除要請することを歓迎するのか、そもそも法を扱う弁護士資格が必要なのか、9業者それぞれに意見が違うようである。しかし、これほど難解な削除申出が個人ユーザーのみに許されるというのでは、削除が広がるわけがなく、代理人による削除要請を積極的に受け入れるというプラットフォーム側の姿勢が求められることはいうまでもない。

第5は、「情プラ法」そのものの建付けの問題である。つまり、個人ユーザーがプラットフォーム側に削除申請するというのが、基本の法律の建付けである。この建付けを広げ、被害者が住民票を置く当該自治体という行政機関に開かれた公的機関専門のフォームを設けることである。被害者からのネット上の深刻な差別や人権侵害を迅速に削除させるためにも当該行政機関からの削除要請を受け付ける専門フォーム(入力画面)が「情プラ法」という法律に基づいて整備されるというのが、きわめてレベルの高い法的規制につながると考える。

以上、ようやく産声を上げた「情プラ法」であるが、9業者に対する削除要請数を高め、プラットフォーム側の判断による削除ではなく、国からできる限り独立した“人権委員会(仮称)”的な機関が判断し、削除をプラットフォーム側に義務として指示するという国内人権機関の整備が必要だという根拠を作り上げる意味においても「情プラ法」に基づく削除の要請を全国的に呼びかけたい。